茫々半世紀



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この2冊を読んで草野心平と中国の縁について初めて知った。草野心平は1921年に18歳で広州の嶺南大学に留学。戦前中国に渡った日本人は多いが、この若さでの中国留学は当時でもかなり珍しかったのではないだろうか。とにかく日本を離れたいという思いが強かったらしく、ハワイの日系人野球チームが来日した際には、彼らが住む宿を訪ねて『一緒にハワイへ連れて行ってほしい』と頼み込んだりもしている。

『茫々半世紀』は193778日の午後に草野心平が中国人の友人二人・劉燧元、葉啓芳と共に銀座不二家の2階でコーヒーを飲みながら談笑している場面から始まる。外から突然『号外!』の声が響いてくる。慌てて新聞を手に取ってみると『盧溝橋事件勃発』という大きな見出しが。それを読んだ葉啓芳は重々しく、そしてブッキラボウに『オレは帰るよ』と呟く。

もう一冊の『対話による自伝 凹凸の道』ではより詳しく嶺南大学時代の印象深い思い出を語っている。例えば、新入生歓迎会で『僕は日本人で草野心平です』と自己紹介したら、発音が良くなくて『僕は草野心病です』と聞こえてしまい、図らずして同級生の笑いを取ったことや、関東大震災の時、嶺南大学の学生たちが『日本政府のポリシーに対しては反対だけど、天災に対して隣にいる私たちが救援の手を差し伸べるのは当然のこと』と言って、救援金品を募ってくれたことなど。

草野心平は1940年から南京の汪清衛政権の宣伝部顧問として当地で働き、1942年に開催された大東亜文学者大会には、中華民国代表として来日している。このような人物の評価は難しい。草野心平の戦争への関与については慎重に見極められるべきだろう。しかしその点を鑑みたとしても、草野心平の語りから立ち現れてくる国境を越えた友情に対しては、やはり素直な感動を覚える。

『私は信じ私は待つ』草野心平

銀座不二家の二階の卓で

劉燧元と葉啓芳と私と。

新たなる事態に愕然とし。

私たちはせつなく辛く話しあった。

ああ盧溝橋事件。

外では号外の鈴が鳴り。

私たちは黙し。

私たちは瞳をさけ。

私たちは辛く論じあった。

二人は直ちに帰国して必要あらば銃をもとるといふのであった。

あれから六年。

葉は何処へ。

劉は香港からバタビヤへ。それから何処へ。

それからあとの消息はない。

けれども私は待っている。

けれども私は信じている。

相抱き得る日の再び訪れてくることを。

劉にやった詩集「母岩」は多分はその身の危険から焼きすてられもしただらう。

けれども劉の「欧遊慢億」の一本は未だに私の手元にある。

昔の彼は未だに私の心にいる。

十八年前の排日英動乱のさなかに私は彼等と別れ。

六年前の盧溝橋事件で彼等は私から去っていった。

けれども私は信じている。

相抱き得る日のあることを。

抱き。信じ。倶に進み得る日の再び訪れてくることを。

ああ。

河南デルタ。

魚生粥。

鎌倉の海。

私は信じ私は待つ。

私の生あるあひだ必ずや。

再び君等と相抱く日のあることを。

私は信じ私は待つ。


# by uskay21 | 2019-02-11 09:51 | 本紹介

Pao



2014年にマレーシア・マラッカの小さな洋古書店で偶然見つけ、軽い気持ちで購入した小説。昨年末に一念発起して読み始めたら、これが予想外に読みやすく面白く、あっという間に読み終えてしまった。

1930年代、母親、弟と共に戦乱の中国を離れ、カリブ海のジャマイカに辿り着いた少年パオは、父親の古くからの友人であるチャンの庇護を受けながら商売に励み、キングストンのチャイナタウンで地位を築いていく…。

本書を読んで自分がジャマイカの歴史についてほとんど何もわかっていないということに改めて気づいた。例えば1970年代にマイケル・マンリー政権が国家の社会主義化を目指してキューバのカストロ政権にかなり接近していたことなどは全く知らなかった。しかし1980年代には親米政権が誕生し、アメリカ軍によるグレナダ侵攻にジャマイカ軍を派遣したりもしている。反米・親米の間で揺れ動いてきた歴史が垣間見える。

イギリスから独立したからといって、植民地時代に築かれた社会・経済構造が自然に変化するわけではない。多くのジャマイカ人は真面目に働いても従属的立場からなかなか抜け出すことができない。その状況を打開するため主要産業を国有化して社会主義的な方向を目指そうとすると、今度は外国資本など既得権益側からの抵抗を受ける。結果としてどの道を進んでもなかなか上手くいかない。物語の中で描かれるジャマイカ大衆の姿を通じて、長らく植民地とされてきた国が繁栄と自立を両立していくことの難しさを改めて感じた。ジャマイカのような国について考える時は、植民地時代の遺産・影響が今の状況とどう関係しているのかという視点を頭の中に入れておきたい。そうしないと「日本人は勤勉で真面目だから発展したけど、何々人は緩いから…」といった単純な考え方に傾いてしまいがち。

ジャマイカがイギリスから独立する前の時代、差別的な言葉を発しながら黒人に暴力を振るう欧米人に対して、主人公・パオはこんな言葉を投げかける。

「俺はチンク(中国人に対する蔑称)じゃねえし、こいつらも二ガーじゃねえ。俺たちはみんなジャマイカンであり、兄弟だ」。

紋切型すぎるかもしれないけど、ここを読んだ瞬間はけっこうグッときてしまった。昔の中国は、少なくとも建前上は、非先進国、被植民地国と連帯し、この世界に存在する様々な抑圧や不平等を解消するため共に努力しなければならないという意識を強く持っていたように思う。そのような意識は今現在の中国にどの程度残っているのだろうか。

著者のケリー・ヤングはジャマイカ生まれのイギリス人。お父さんは中国人で、お母さんは中国系とアフリカ系両方のルーツを持つ。本書以外に『Gloria』という小説もあり、登場人物、状況設定は同じままで、視点をパオからジャマイカ人女性·グロリアに変えるという面白い試みをしている。ジャマイカ三部作ということで、もう一作出す予定らしい。楽しみ。


# by uskay21 | 2019-01-22 06:39 | 本紹介

野豬渡河


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台湾在住のマレーシア華人作家、張貴興が今年発表した長篇小説。小説の舞台は太平洋戦争期のボルネオ島・サラワク洲。真珠湾攻撃の9日後、日本軍は南シナ海からボルネオ島北西部に上陸し、先住民のダヤック族、マレー人、華人、日本人、イギリス人、オランダ人など多様な民族が暮らす村・豬芭村を占領する。抵抗を試みた住民たちは日本軍に追われ、次々と命を落としていく…。

日本では沖縄戦、硫黄島の戦い、インパール作戦などについては知っていも、マレーシア、シンガポール、インドネシアといった東南アジアの国々で戦争中何があったかについてはよくわからない、という人がほとんどではないだろうか。日本人の死者が相対的に少なかった地域でのことは、私たちの記憶に残りにくい。しかし当然のことながら、現地に住んでいた人々は日本に支配された経験を忘れていない。

そんなわけで、最初は単純に「太平戦争中に日本軍がボルネオ島で何を行ったのかをもっと知りたい」という思いから、本書を手に取った。文学研究者の王徳威は本書の序論でこう書いている。『哈日族(日本好きの人)は覚悟して読んだほうがいい』。確かに日本軍兵士の行為を描いた場面は極めて残酷。あまりに残酷過ぎて『いくらなんでもここまでやっていなかったのでは』と条件反射的に思ってしまうほど。しかし蠱惑的ともいえる修辞を剥ぎ取り、最後に残る行為自体を抜き出してみれば、それは石川達三が『生きている兵隊』の序盤で描いた処刑シーンと何ら変わりはない。そして読み進めるうちに、『やり返してやらないという気が済まない』というどろどろした復讐心が沸き上がってくる。

ではこの作品を『抗日小説』と呼ぶべきだろうか。そう問われると、正直言葉に詰まってしまう。日本軍はわりと明確な悪として登場するが、小説の中の現地住民がみんな善人かと言うとそうではない。現地社会の内側を描いた部分でも、今の感覚に照らし合わせると倫理的に危うい描写がかなり多くある。華人、マレー人、先住民のダヤック族など異なる民族間の緊張関係、争いも手加減なく描かれおり、『調和の取れた社会が野蛮な力によって破壊される』というわかりやすい構図にはなっていない。

また超常現象、怪談としか思えないようなエピソードもごく自然なかたちで物語の中に組み込まれている。現実と非現実の境目が曖昧という点において、マジックリアリズム的要素が濃厚な作品であるともいえる。

この作品は「抗日小説」という枠組みを飛び越えて、読者の倫理観を激しく揺さぶる力を持っている。そこがこの作品の魅力であり、また危うさでもあると思う。『東南アジアの戦争被害の歴史を知りたい』という真面目な志を持って読み始めたのに、気づいたら最初にイメージしていたのとは全然違う渾沌とした世界に引きずりこまれてしまった。


# by uskay21 | 2018-12-30 10:30 | 本紹介

漂浪の子羊





1946年に台湾で刊行された日本語小説『漂浪の子羊』。これはその復刊本。作者は日本生まれの台湾人、陳惠貞(1932-2005)。日中戦争開始から第二次大戦終結にいたるまでを時代背景に、日本に住むある台湾人一家の暮らしを半自伝小説風に描いている。

本作品が発表された1946年当時、著者はまだ14歳。若干14歳でこれだけの長篇小説を書けたというその早熟ぶりにまず驚かされる。

作品全体からは著者の中国人としての愛国心と日本帝国主義に対する怒りがあふれ出ている。『台湾人なのに中国人としての愛国心?』と疑問に感じるかもしれないが、戦前は中国人であることと台湾人であることが現在ほどにははっきり対立していなかったように思う。

ただ著者は日本生まれ日本育ちなので、この作品を発表した1946年時点ではまだ中国に行ったことがないはず。その後二二八事件などの影響を受けて台湾にいられなくなった父を追い、中国に移り住むことになる。彼女がもし台湾に残っていたら、その後半生の中で自身と中国との心理的距離感にどのような変化が起こっただろうか。

今の感覚で読むと中国ナショナリズムが強く出て過ぎており、紋切型の表現が多いように見えてしまうかもしれない。しかし私は本書の最大の魅力は主人公家族の何気ない暮らしの描写にあると思っている。

中国人であることを理由にひどい差別を受けるなどつらいこともたくさんあったけど、それでも日本で家族一緒に過ごした日々は自分にとってかけがえのない時間だった。彼女のそんな思いが生き生きとした日常描写の積み重ねから滲み出ている。

登場人物が現代社会の不平等に対する憤りを露わにする箇所もあるが、小説内における主人公家族の生活自体はけっこうブルジョア。父親は法政大学の教員。住まいは自由が丘の庭付き一軒家。女中さんもいる。お母さんは幼稚園から帰ってくる娘のために手作りおやつを準備しちゃったりしている。

家族四人でママの手作りおやつを食べながら、娘が「ママ、この牛乳、ちっとも甘くないヮ」と言って、それに対して父親が「サア、ママは、あんまりあわててお砂糖を入れるの忘れたな」と返す場面なんかもある。それなりに良い暮らしをしているように見える…。


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本書を読んで著者と谷川俊太郎が幼馴染であったことを初めて知った。法政大学の同僚だった著者の父親と谷川徹三が家族ぐるみの付き合いをしていたから。これは本書に収められている写真のうちの一枚。撮影時期は1940年ごろで、場所は銀座。8歳の著者が9歳の谷川俊太郎と腕組みして写っている。


# by uskay21 | 2018-12-24 11:43 | 本紹介

BTS

最近我有點迷上防彈少年團(BTS),每天早上我起床後先打開Youtube,聽聽BTS再去上班。我可能聽太多了,現在我在Youtbe上看到的廣告,大部分都是BTS成員呼籲大家去韓國旅游的影片。BTS由三位MC和四位歌手組成。那三位MC,我能認得出來,但另外四位歌手,我還是分不清誰是誰。我得繼續努力。

上禮拜五BTS預計上富士電視台的音樂節目《Music Station》。我家裡沒有電視。我認真考慮了一下要不要只為了看他們特地回老家。結果節目播放的前一天他們的演出突然被取消了。聽說成員Jimin曾身穿一件光復節T寫,上面印有原爆圖案,在日本惹來爭議,最後富士電視台決定不讓他們上節目。

我當然衷心希望大家無論屬於哪個國籍都尊重原爆受害者,但這次我實在不想跟大家一起罵BTS。

那些要求BTS公開道歉的網民,其中有很多人,常常用低賤,粗暴的語言侮辱慰安婦、二戰期間的徵用工等戰爭受害者。明明不尊重在戰爭中受傷害的弱小個體的人,看到韓國偶像身上穿著一件上面有原爆團案的T寫,突然大聲說「啊,這是對原爆受害者的侮辱!」,而幸災樂禍似的罵起來。他們若真的認為原爆受害者應得到尊重,他們為什麼不能對慰安婦和徵用工表達關愛?在我眼裡,他們的真正目的似乎不是守護原爆受害者的尊嚴,而是發洩自己的嫌韓情緒。


# by uskay21 | 2018-11-14 21:39 | 音楽紹介


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